ウェルビーイングとビジネス

最近、私のところに、様々な企業から「ウェルビーイング」のサービスや事業をつくりたいけれどもどうすれば良いか、というお問合せをいただくことが増えている。そもそも、私たちは、広告を通して、生活者に新たな価値を提供していたので、すべての商品やサービスは、顧客のウェルビーイングをもたらすものが前提ではないかと思う。

そして、ウェルビーイングなサービスや事業というのは、ほとんどが「nice to have」(あったら良いな)というものがほとんどで、「must have」(なくてはならないもの)になっていないものに陥ってしまっていることに気づかされる。ウェルビーイングなサービスや事業は、本当にビジネスになるのだろうか?


企業が生むウェルビーイング事業

企業が生むべきウェルビーイング事業は、それぞれの企業がどんな事業ドメインを持っているか、どんな知財を持っているかなどによっても変わってくるが、共通の認識を持つ必要があると考える。

結局、事業を生むのは「人」だ。その「人」がどんな顧客(生活者)をウェルビーイングにしたいのか、事業の種になる元を考える「意志」が大切になってくる。ここに「意志」がない場合は、他人事になってしまうので事業は生まれにくい。どんな顧客に、どうやってウェルビーイングになってもらうか、そのための体験をどうやってつくれるか、という「意志」をもって、その顧客にどんどん話を聞きまくることが大切である。

「顧客」の需要が把握できた後に、新しいウェルビーイング体験サービスをつくっていく。そして、DX時代に意識しておきたいのが「データ」だ。その「顧客」にどのような価値を提供するかを明確にして、納得いただくUX・UIを設計することで、その「顧客」は「データ」を企業に預けてくれるのだ。「データ」をクレンジング・分析することで、新たな「ウェルビーイング体験」を増産していくことにつながっていくのである。


ウェルビーイング・テック・スタートアップ

世界中には、マインドフルネスやスリープテックなど様々な「ウェルビーイング・テック」のスタートアップが起業している。日本のスタートアップも、私たち博報堂が進めているHakuhodo Alliance Oneチーム(※1)で調べたところ、ここ3年前後で起業したスタートアップの中で、約10~15%のスタートアップがウェルビーイング・テックのスタートアップだと分析している。睡眠や食事といった日常的なPHR等個人データ(PHR:Personal Health Record)を獲得しながら、人々の健康管理を支援するスタートアップや、日々の生活をより充実させるために、コミュニティを通して習慣化をうながすスタートアップ、セレンディピティを求める生活者へむけてウェルビーイングやリベラルアーツの学びを提供するスタートアップなど様々あり、皆がビジネスとしての確立を目指し奮闘している。

そうしたウェルビーイング・テック・スタートアップのビジネスがグロース(マネタイズ)していくためには、やはり「顧客にどういうウェルビーイング価値を提供するか」というマーケティング視点や、お金を払ってでも活用したいと思わせる仕組みが重要になってくると思っている。



「習慣化の行動デザイン」と「究極のパーソナライゼーション」

生活者のウェルビーイング体験をつくっていく上で、単発的に「欲を満たす」ためや、マーケティング観点で売れるために、「ウェルビーイング」という言葉を使うということではなく、一人ひとりの生活者を持続的にウェルビーイングな状態にするためのアプローチや仕組みとして、私たちは2つの考え方に注目している。

ひとつめが、「習慣化の行動デザイン」。Wellな状態を維持するためには、3日坊主で終わらない設計が重要だし、日常の生活の中に取り組むことが大切になっていくのは言うまでもない。習慣化のデザインのために必要な要素は3つ。
1:インセンティブの設計
2:エンターテインメント(楽しさ)の設計
3:コミュニティの相互協力の設計
これらは、ウェルビーイング習慣をデザインしていく上で意識したいポイントである。私たち博報堂のクリエイティブのメンバーで、この設計を意識して習慣化につなげている。

ふたつめが、「究極のパーソナライゼーション」。個人のデータ(主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング)を分析することで、生活者一人ひとりのウェルビーイングをよりパーソナライズドさせることで、本当に必要なタイミングで、必要な体験をすることができるようになる。さらには、パーソナライズドされたデータをつなぐことで、Co-Beingな状態をつくることが大切になってくる。


共創からつくるウェルビーイングな体験が増える世界

ウェルビーイング・ビジネスを展開していく上で、一番大切な視点は「共創」である。産官学民のあらゆるステークホルダーが、お互いの持っているデータを共有することで、新しい体験づくりにもつながる。多様な社会に、多様なウェルビーイングを実現させるためには、お互いのアセットや強みを活かすことが重要で、そのなかから様々なウェルビーイング事業が生まれてくる。そうした先に、「ウェルビーイング産業」の夜明けが見えてくると考えている。

 

(※1)ミライの事業室「Hakuhodo Alliance One」
チーム企業型事業創造の実現に向けて、スタートアップなど多様な外部パートナーとのアライアンス/ネットワーク構築を推進する専門チーム。博報堂ミライの事業室に設置し、社会・生活者起点の事業創造に強みを持つメンバーによって構成。博報堂グループ内の事業創造に関するリソースとネットワークを一元化し、外部パートナーとの協業窓口、協業戦略の策定、共創テーマ(※2)が合致するスタートアップとの 2on2 ダイアログ実施など、共創推進のハブを担っていきます。
https://hakuhodo-mirai-hao.com/

(※2)共創テーマ
ミライの事業室が事業創造において注力する現在7つの社会テーマを想定(スマートシティ、ウェルビーイング、コマース、コミュニケーションインターフェース、スポーツ、エンターテイメント、脱炭素)