前回、「主観的ウェルビーイング」の重要性をお伝えした。
 今回は、コロナパンデミックで失われつつある「コミュニティの中でのウェルビーイング」の話をしたい。

過去『人間関係』が生活者の困りごとNo1。

 私自身、新規事業開発に携わって10年が経過した。新規事業をどんどん生み出していくためのアイデアの種として、約10万件の生活者の困りごとを集めたことがあった。そして、集めた生活者の困りごとと、それを解決するテクノロジーを組み合わせて、新規事業にしようと試みたのだ。

 様々な生活者の困りごとをAIにより言語解析して、どのような困りごとが多いのかを分析したところ、「人間関係」に関する困りごとが一番多かったのだ。夫婦間や親子間の人間関係、近所付き合いの人間関係、会社の同僚や上司部下との人間関係。様々な人間関係を解決しないと、人々はウェルビーイングになれないと感じた。(2017年 博報堂オリジナル全国生活者困りごと調査より)

コロナ時代の今の「生活者の困りごと」は?

 今、コロナ前と同様に「生活者の困りごと調査」をしたら、どのような困りごとが上位にでてくるだろうか?

 やはり人間関係に関する困りごとが多くあがってくる可能性はあるだろう。例えば家族で過ごす時間が増えたことで、家族間の人間関係に関してこれまで顕在化してこなかったような困りごとが出てくるかもしれない。逆に、家族のきずなが強まったり、家族でいっしょに料理をする時間が増えたりとウェルビーイングな状態になっていることも考えられる。近隣住民とは、お互いに在宅時間が長くなり騒音などを通して関係が悪化してしまうような可能性もある一方、お互いに見守り合い声を掛け合うような良好な関係になっているかもしれない。会社では、出社頻度が減り苦手な同僚と顔を合わせる必要がなくなって良かったと感じる人もいたかもしれないし、会社への帰属意識が低下して転職や新たな挑戦を始めた人もいたかもしれない。

 もちろん、人間関係とは違った困りごとが出てくる可能性もある。コロナによって様々な生活シーンが影響を受けた結果、「睡眠障害の困りごと」「禁止が増えたことのストレスによる困りごと」「運動不足による困りごと」などがあがってくるのではないだろうか。

コロナ社会が、より居心地の良いコミュニティを求めるようになった。

 コロナ社会で、行動の制限をされ続けた中で、一人ひとりの生活者が自ら、どうやったらウェルビーイングな状態をつくれるか考えるようになった。その結果、自分たちで「つながるべきコミュニティ」を選択するようになった人も少なくないように感じる。

 オンラインでのミーティングは、相手との会話の内容が要件のみになってしまい、いわゆる「雑談」が無くなってしまっている。実際、この雑談がなくなったオンラインのみの会話では、相手のことをより理解することは難しくなった印象だ。けれども、いい意味で「適当なつきあい」ができるようにもなった。

 そして、苦手な人と無理に会話する必要もなくなったおかげで、対人関係のストレスを感じる人は少なくなっているのではないだろうか。自分と関係が深い居心地の良いコミュニティだけで「生きる」こと、それが自分自身のウェルビーイングを高める結果にもつながっているし、そうした生活を選ぶことで自己防衛と安らぎを求めているのだ。

好きなコミュニティの中でのウェルビーイング。

 好きなコミュニティの中にいると、「楽しい」「自然と笑顔がでる」「会話したい」と思えてくる。そして、苦手なコミュニティの中にいると、「面倒くさい」「ストレスフル」「気持ちが落ち込む」ということになる。私たちは、今「好きなコミュニティ」だけを選ぶことによって、自己防衛をしながら、自分たちのウェルビーイングな状態をつくっている。

 人間関係の煩わしさから解放されて、好きなコミュニティの中で「自分にとってウェルビーイングな状態を探して、つくりだす」ことで、ポジティブなウェルビーイングな状態をつくれるのだろう。ただ、その居心地の良いコミュニティが閉ざされていては、新たな発見や挑戦ができなくなってしまう。居心地の良いコミュニティの範囲が少しずつ、ゆるくつながる感じで拡がっていってほしいと思う。

 自分と価値観やバックグラウンドが違うコミュニティを批判し合ったりお互い罵り合ったりする社会ではなく、お互いゆるくつながっている状態で、居心地よい場所や時間を探し求めることからやってみたら、ウェルビーイングの輪が広がっていき、Better Co-Beingな社会に近付いていくだろう。

 私も事業共創やDX業務を通して、生活者に新しい価値を提供していくことで、好きなコミュニティの輪が広がり、ゆるやかなコミュニティが交わることによるウェルビーイング共創に挑戦し続けたい。