今回は組織を変えていくために重要なOD(organization development)という概念についてご紹介します。簡単にいうと組織風土をよくしたり、組織の機能を高めるための取り組みを総合的にODと呼んでいます。

今回はODの中から、システム思考のアプローチでまとめられた重要なフレームワークである、ダニエル・キムの「成功の循環モデル」をご紹介します。

この図にあるとおり、組織をうまく動かすには、この成功の循環モデルというものを意識する必要があります。

新規事業というのは当然一人ではなく組織としてやっていかなければいけません。この概念を理解しておく必要があります。

ではまず、個人の思考の質についてです。要するに、モノの考え方(思考の質)が変わらなければ、モノゴトの捉え方や行動は変わることはありません。

ただし、組織の中で一人だけ思考の質が変わっても、組織全体でモノの考え方を変えていかなければまったく意味がないため、この内容は組織として取り組むものと考えてください。

行動は指示すれば変わりますが、その場合ずっと指示し続けなくてはいけません。だからこそ全員で一緒に考えてやっていくには、まず全員の思考の仕方を変えておく必要があるのです。

ただし、考え方を変えるというのは言うは易しですが、新規事業組織といっても、大学、年齢、やりたいこと、モチベーション、家族構成、給料など、さまざまなバックグラウンドを持った人間が集まっています。

そのまったく違う人たちに「新規事業をやるのでエフェクチュアルアントレプレナーシップの考え方に則っておこないましょう」といっても、それは指示であり、思考の質は変わっていきません。

では、どのように変えていくかというときに、まず関係の質を変えていく必要があります。

関係の質とは「職場での会話量の多さ、お互いに協力し合う度合いなど、メンバーの関係や関わり合うときの雰囲気」のことですが、これは人間関係の質がいいということの結果なんです。

まず関係の質をよくしていくのは難しいところですが、私がSEEDATAを経営してきた経験から言えることは2つです。

1.心理的安全性
上司や同僚などになにか提言したら聞いてもらえたり、思っていること悩んでいることを言っても大丈夫と思っている、つまり心理的安全性が担保されている関係性であれば会話が増え、関係の質はよくなっていきます。そのための取り組みはさまざまなものがあります。

2.プライベートも含めた人となりを知る
SEEDATAではよくペアインタビューを行ってきましたが、人によって何でモチベーションが上がるかはかなり異なり、サークル活動など仕事以外の場面に表れることが多くあります。

「飲み会やってれば分かる」という人もいますが、飲み会では仕事とも自分のプライベートとも関係ないくだらない話をすることが多いため、「お互いの人となりを知る」という目的を持ったセッションが飲み会以外に必要です。

これをチームビルディングのワークショップと呼びますが、これは専門的にそうしようと思って高めていく必要があります。詳細は拙著「だから最強チームは「キャンプ」を使う。 ──「創造性」と「働きがい」を生み出すビジネス合宿術」(博報堂ブランドデザイン (著) :インプレスジャパン)に書かれていますので興味のある方は読んでみてください。

思考の質に関しては、今後詳しく書きますが、理解してほしいのは、行動の質を変えるためには、まずはチーム全員で思考の質を変えていかなければいけないということです。まずはチームビルディングをしっかりして、そのうえでチームの思考の質を変えていく必要があります。

そこで初めて結果の質が変わり、結果が出るとまた関係の質がよくなり、関係の質がよくなると思考の質が上がり、行動の質が上がる……というよいサイクルが、ダニエル・キムが整理した成功の循環モデルなのです。

ODは国同士の関係改善や紛争解決など、先鋭的な利害解決に介入できるまで磨きこまれている分野であり、仮にチームが最悪な状態からでも必ず関係改善は可能です。

ただし、話し合いや対話はあくまで関係の質をよくするための手段のはずが、目的になってしまう可能性があるため、新規事業の場合はそこまで本格的にやる必要はなく、まずは作業興奮の原理で手を動かすことが重要です。

1カ月半~3か月くらいで思考の質はいったん終わりにして、行動の質に移しましょう。合宿でいえば終日1、2日で終わらせるべきです。