今回は私が考えるペルソナの作り方と使い方について解説していきます。

ユーザーを理解するためより具体的な顧客像を描いたものがペルソナ

まず、そもそも何故ペルソナが必要とされ始めたのか、その経緯を理解する必要があります。

ジョン・S・プルーイット著『ペルソナ戦略』によると、経営理論は1990年代に大きくマーケット・ベースト・ビューリソース・ベースト・ビューという2つの流れがありました。
(参考文献:
ジョン・S・プルーイット著、秋本 芳伸訳『ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』ダイアモンド社,2007年,p.321)

マーケット・ベースト・ビューは市場での優位性確保を中心として戦略立案するという考え方であるのに対し、リソース・ベースト・ビューはリソースそのものの優位性の確立を目指した戦略立案をするという考え方です。

これらの考え方以外にも、ある分野において競合を圧倒的に上回る能力を重視する戦略(コア・コンピタンス)、競争ではなく共存を重視する協調戦略や提携戦略を重視する動きもありました。

この「視点」に関する論争とともに、経営手法に関する研究や成果も多く登場しました。

リエンジニアリングに代表される各種の手法は、情報技術を駆使して新たな業務モデルを作り上げるもので、これが近年のビジネスモデル志向の事業づくりや業務設計につながっています。

ペルソナも、これらの経営手法の研究が作り出してきた新たな方策の1つと位置づけることができますが、ペルソナは、もう1つの側面を持っています。それは、経営戦略を考えるうえでのきわめて重要な視点である、顧客に関する企業としてのモデル、 または意見を表現しているということです。

近年よくいわれる戦略の物語性とは、戦略や顧客像を物語を語るように多くの場面を想定して、生き生きとした像を作り上げることです。ペルソナでは「Good story has the right details」といわれ、ユーザーの使用場面を理解することが求められますが、まさに物語性を持つことが戦略の基点になるのです。

つまり、企業戦略として市場の変化に適応しなければいけなくなったときに、市場に適応するとは基本的にユーザーの変化に適応するということです。ユーザーの適応を理解しやすくするためには、より具体的な顧客像を描いたほうが分かりやすいというのがペルソナのもともとの着眼点です。

もうひとつ、マーケティングの話ではありませんが、経営戦略的に考えると昔からビジネスモデル偏重主義というものがあります。まず儲かるビジネスモデルは何なのかを決めてから、それに合わせてサービスや商品を作る思考回路ですが、これは現代にあまりマッチしていません。

なぜなら顧客ユーザー視点の欠如であり、そこに対するカウンターパンチとして、ビジネスモデルだけでなく、顧客側が分かりやすく描かれたフォーマットが必要ということでペルソナというメソッドが誕生したのです。

ペルソナは目的に応じて作る必要がある

ペルソナと一言でいっても、さまざまなレイヤーで考える必要があります。
・新規事業の際のペルソナ
・新規事業の中でもとくにサービス開発が絡むペルソナ
・ビジネスモデルは確定していて新商品開発に近い場合のペルソナ
・商品はすでにあり、それをどう伝えていくのかというマーコム目的のペルソナ
・時間軸を長くして、商品の作り方、コミュニケーションの仕方を長期的に統合していくようなペルソナ(ブランドペルソナ)

目的に応じたペルソナの考え方には、その組織らしさが現れたり、人によって考え方も異なりますが、大切なことは「今自分たちは何のレイヤーのペルソナを作っているのか」を意識することです。

新規事業の場合のペルソナ

新規事業において何故ペルソナを作る必要があるのか、それはMVPのデザインのためです。

要するにミニマムにバイアブルなプロダクトというのが、「誰に対して」かによって、何をもって「バイアブル」「ミニマム」なのかも当然変わってきます。そのため、新規事業にではMVPを作るためにペルソナを作らなければいけないのです。

ビジネスの最終型や最終的なビジネスモデルが実現された際の顧客体験イメージになるようなペルソナはあってもなくてもよいというのが正直なところで、それはあくまで上申用とわりきりましょう。

新規事業の場合は最終ユーザーだけでなく、ステークホルダーもたくさん登場するため、本来はMVPに関わるステークホルダーもペルソナ化します。

「将来的にこんなビッグ・ビジネスになり、そのときにこんな人たちが使います」というペルソナよりも、MVPのエンド・ユーザーのペルソナと、それをとりまくステークホルダーのペルソナをキーパスシナリオとともに描くことをオススメしています。

新規事業でサービス開発をおこなう場合のペルソナ

新規事業でサービスをデザインする際に何故ペルソナを作るかというと、具体的な機能を開発するためです。

具体的な機能とは、画面の大きさ、文字をクリッカブルにするかどうかなど、具体的な仕様のことで、キーパスシナリオと合わせて、ひとりの人をリアルにイメージできるように書いていく必要があります。

そのため、新規事業でサービスをデザインする場合、新規事業でステークホルダーを描く場合より、よりひとりの人をイメージし、顔と行動が見える形でペルソナを作っていくことがポイントです。最小で1分単位のサービス・ブループリントをイメージできるレベルまでペルソナを作成することもあります。

商品開発の場合のペルソナ

商品開発の場合はサービス開発とかなり似ていて、商品の仕様を考えなければいけませんが、ビジネスモデルはすでに決まっています。この場合はキーパスシナリオを少し広げて考える必要があり、商品とどのように出会い、どのように購入して、どのように使い、何故リピートするのとかという体験軸を長くします

新商品開発の場合はカスタマーエクスペリエンスを少しロングレンジでとらえるようなイメージで、認知から購入・利用・評価・廃棄や売却程度のレンジで、それに関係するようなペルソナの書き方をしたほうがよいでしょう。

コミュニケーション(広告やコンテンツマーケティング)の場合のペルソナ

この場合、あまりリアルな顧客をペルソナとしてCMや映像を考えると、やたらリアルで逆に希望を抱けなかったり安っぽく見えてしまったりするという現象があります。

このときに描くペルソナは、アイデアルカスタマー(理想の顧客像)といって、実際のターゲットの人が少し憧れを抱けそう、または「こういう人たちになれそう」という希望を抱けるという観点を意識してペルソナを作ることが重要です。

インターネットマーケティングの場合、まずリアルな人をいくつか作っていき、その人がちょっと背伸びできるような人を7つくらい作り、その人向けにバナーのメッセージなどを打っていくようなイメージです。

逆に、お店でのプロモーションに特化する場合、本当にいそうなボリュームターゲットのプロファイリングをするつもりで、リアルに描く必要があります。

ただし、電波系やディスプレイ系の広告素材を作る場合は、リアルすぎると安っぽくなってしまうため、デザイナーには「リアルなターゲットはこうだが、こういう人たちが希望を抱けるようなちょっと背伸びした人を描いたうえで広告を作ってください」と伝えたほうが良いでしょう。

ブランドペルソナの場合

ブランドペルソナは商品開発やコミュニケーションをすべて統合したものになるため、かなり抽象的で、実際そんな人はいないだろうというペルソナになります。

具体的には、絶対善のような価値観を中心に、誰もが反対しないがOBゾーンはどこかが分かる、「こんな人は実際はいないがとても理想的な人」を描きます。

これは実務で使うというよりは、みんなが合意をする、こういうところを理想として目指していこうというためのもので、もっとも現実離れした人になる可能性があります。場合によっては数年後、重十年後の理想的な人になることもあり、この場合最大限に現実離れします。ただし、目的が他のペルソナと違うのでブランドペルソナに対して抽象的だとか現実的ではないという批判を行うのは的外れです。

このように、一言でペルソナといってもさまざまで、リアルにいるのか、希望を抱く人たちなのか、実際の仕様に落としたいのか、すでにビジネスモデルは決まっているから出会いからリピートまでを描きたいのか、目的に応じて抽象度も書き方も変わります。

何のために、どういう範囲でペルソナを書いていくのかをきちんと考えたうえで、ペルソナの中身を書いていきましょう。

最後に、どんなペルソナを作る際も、ペルソナというのは金科玉条のように守るものではないということを重要視しましょう。

つまりペルソナは仮説でしかなく、PoC、PoBをしたら変わるかもしれないし、そもそものペルソナ戦略というものは、みんなで合意しながら仮説を作り、定量調査やアーリーウォーニングサインを発見しながら、確からしいか、ボリュームがあるかを最終的には定量的にロジカルに検証していくというものです。

みなさんのダッシュボードとして使っていくべきものなのです。