「前回の記事」では、私たちが本年度から新たな取り組みとしてJV(事業共創)に特化した「Hakuhodo JV Studio」を設立したことをご紹介したところ、社内外から大きな反響がありました。
そこで2回目の当記事では、「そもそも今JVに取り組むとどんな良いことがあるのか?」「自分が取り組みたい事業は、JVという形で実施したほうがうまくいくのではないか?」、そんな疑問をお持ちの方に向けて、実例を交えながらJVの考え方を基礎から解説していきたいと思います。
ジョイントベンチャー(JV)とは
ジョイントベンチャー(以下JV)は、2社以上の法人がヒト・モノ・カネのリソースを投入し、共同出資で立ち上げる法人のことです。大枠では単独で収益を稼ぐプロフィットセンター型と、コストダウンが主な目的となるコストセンター型があります。前者の場合は新規事業領域にチャレンジする場合に使われることが多く、後者の場合はJV化することによるスケールメリットで低コストでの生産を実現したい場合に主に使われます。参入戦略の1つという位置づけです。
JVをなぜ実施するべきか〜JVのメリット・特長〜
JVの一番のメリットは、自社にないリソースを持っている外部の会社と組むことでそれぞれの強みを発揮することに注力することができ、結果自社単独では難しかった事業成長を実現できることです。
わかり易い例だと、顧客基盤はあるが強い営業部隊がいないとなった際に外部の営業が強い会社と組むことにより自社で0から営業部隊を立ち上げるよりも高確度、かつスピーディーに事業拡大を実現するようなケースが上げられます。開発機能が強い会社とマーケティングが強い会社が組む、サプライチェーンの上下流で組むなど、様々な組み方が想定されます。
外部から人材を採用する、専門部隊を立ち上げるなど自社単独で実施する手法も当然あります。しかし自社になかった機能を0から作るというのは中々難しいものがあり、残念ながらうまくいかないケースも見られます。
当然自社単独のほうが戦略的に良いというケースも考えられますので、自社単独での実施、JVと、幅広く参入戦略を考えることが重要だと考えています。
大企業同士が組む場合にJVは特に有効〜他参入戦略と比較したJV〜
先程参入戦略と言いましたが、参入戦略には他にも自社にない機能を持つ外部の企業を買収するM&Aや、資本を入れずに提携を結ぶ業務提携などがあります。
それらと比較したJVのメリットは、主に下記2点です。
【JVのメリット】
1. M&Aでは獲得が難しいリソースを持つ企業と組むことができる
2. 長期的なパートナーシップの下で事業運営ができる
まず『1. M&Aでは獲得が難しいリソースを持つ企業と組むことができる』ですが、これは自社にない機能を持つ企業が特に大企業だった場合のことを想定しています。中小企業やスタートアップでしたらM&Aとは言わないまでもマイナー出資で協業などもあるかもしれませんが、大企業が相手となるとM&Aは中々できませんし、現実的ではありません。
そして得てして、大企業同士が組んだときの事業のドライブは凄まじいものがあります。JVであれば大企業同士で組むことにより、大企業の持つ優秀な人材や顧客基盤などの資源、蓄積された内部留保などを掛け算し強力に事業をドライブさせることが可能です。これは他の参入戦略にはないメリットです。
次に『2. 長期的なパートナーシップの下で事業運営ができる』ですが、資本の入らない業務提携であれば大企業同士でも比較的障壁を抑えながら結べますし、設計次第ではJVに近しいメリットを得ることも不可能ではありません。一方で資本が入らないため、解散も比較的容易というデメリットがあります。方針変更など様々な理由で提携を解除されてしまうというリスクです。本腰を入れて進出したいにも関わらず、簡単に戦略がひっくり返ってしまうというのは大きなリスクだと考えています。
JVであれば資本関係になることで5~10年といった長期的なスパンで共同で事業に取り組めるため、この点も他参入戦略にはない大きなメリットと言えます。
うまくいくJVと失敗するJVの違い〜JVのデメリットと解消方法〜
ここまでJVのいい面ばかりお伝えしてきましたが、当然JVにも弱みがあります。それは2社以上の法人が意思決定に入ってくることによる意思決定の複雑化です。
自社単独の場合は1社のみで事業の決定をすることができますが、JVの場合は2社以上の法人が入るため特に重要な意思決定は協議して決定することが前提になります。結果としてA社は右に行きたいといい、B社は左に行きたいという、その妥協点が見つからずに事業が停滞するデッドロックという状態に陥ってしまうこともあります。
この根本的な原因のひとつは、JV設立にあたって締結するJVA(合弁契約)にあります。
JVAはJVの機関設計(各社出資比率や出資金額、取締役人数など)について両者で取り交わしたもので、このJVAの締結をもってJV設立が法的拘束力をもって確定となる書類です。どのJVも基本的には設立時にこのJVAを締結していますが、そのボリューム=盛り込まれた項目数が重要になります。
ポイントはなるべく具体的に取り交わすことです。JVが設立されたらどの程度の頻度で事業をモニタリングするのか、撤退するときはどのようなルールが適用されるのか、どのようなリソースを各社は拠出することを約束するのかなど、徹底的に具体的な内容を盛り込むことが重要です。それにより各論以外の意思決定に関して事前に議論することができ、結果同じ方向を向いた事業運営が可能になります。
また、意思決定主体の明確化も重要です。これはひとえに出資比率の話です。例えば出資比率が50%:50%のJVの場合、意思決定という観点においてはどちらにも意思決定の最終決定権がないためあらゆる事項で協議が必要になるという難しさが想定されます。そのため重要事項は少ない出資比率の企業に拒否権を付けるなどしつつ、意思決定主体をしっかりと明確化することが重要だと考えています。
さて、今回の記事では、JVの概要について簡単に触れました。今後はより踏み込んだ内容をお話していきたいと考えています。