今回は事業撤退の判断基準について、以前の記事でもご紹介した事例をもとに解説します。

ある百貨店が以下のようなtoC向けの新規事業開発をおこないました。

【事業内容】
C2Cで手芸のレシピを作っている人をポータルに集め、レシピを見たい人たちとユーザー間でやりとりができるサービス。
広告メディアとしてビジネスモデルが成立したり、そこから商品開発ができるというのはよくあるマッチングプラットフォームの形です。

事業撤退の判断基準を作る際のポイントは、価値とビジネスモデルでKPIを分けることです。

ここで注意したいのが、KGIは基本的にゴールであり、売り上げ利益です。よく、KGIと近すぎる項目をKPIにしている事例を見かけますが、
KGIは山の頂上(売上利益、キャッシュフローなど)
KPIはその山の頂上にどう登るか
なので、KPIとKGIを間違えないようにしましょう。

では、KPIをどう設定するかですが、ポイントは以下の2点です。
①価値のKPIとビジネスモデルのKPIに分けて設定する
②プアシナリオとフェアシナリオに分けて設定する

まず、フェアシナリオとは、自分たちなりにPoC、PoBをしてみて、うまくいったらここまでいきそうだから、ここまでいったらアクセルを踏みたいという基準です。

一方プアシナリオは、自分たちが努力したにも関わらず数字が伸びない場合でも、最低限このくらいはいかなければいけないという数字です。

プアシナリオとフェアシナリオを作ると、実際はだいたいその中間になりますが、プアシナリオになってしまった場合は、ビジネスモデルか価値が根本的に間違っているので、そのときはすぱっと諦めて、『新規事業の撤退シナリオ』(※リンク)を参考に撤退する必要があります。

一方、このサービスの価値は「自分の日常生活の中でできたアイデアをノウハウとして発表する、または交流する機会」なので、このふたつに関してKPIを設定します。
・発表→レシピの登録数
・交流→コメント欄での一記事あたりのコメント数

という風に、必ず測定できるものにしましょう。

ビジネスモデル側は、広告モデルであれば
・PV数(先ほどの価値のコメント数が増えれば連動する)
・UU
・滞在時間

以上のような3つくらいが伸長すれば、最終的には広告メディアとしては成立します。

プラス、今回の事例の場合「ニッチなメディア」という部分がポイントなので、そのジャンルを好きな人が見に来ているかどうかが分かる必要があります。

たとえば、
・会員登録するとさらに情報が見られる
・メルマガを作り性年代属性をとる
・手芸のKWがたくさん入っているコンテンツを作り読まれているかを確認する……
などのKPIを設定することで、ニッチな広告メディアといえるかどうかを測定します。

KPIの数値を具体的にいくらに設定するかは、PoCを回してみなければ分からないため、具体的な数字は割愛します。

このように撤退基準を作っていき、「このうちいくつクリアすれば続ける」でもよいですし、「ビジネスモデルとしてはダメだが価値の部分が伸びていればしばらく続ける」のもよいでしょう。価値よりもビジネスモデルを重視する会社もあるでしょうし、両方撤退基準にする場合もあります。

撤退基準は会社ごとの個性があるため、一概にこれが正解というものはありません。
一番よくないのは「起案者が頑張っているから」「会社としてこれは重要だから」といった精神論で撤退基準や継続基準を決めることです。

繰り返しになりますが、
・まずは価値とビジネスモデルに分けてKPIに落とす
・その際フェアシナリオ、プアシナリオを持つ
・ビジネスモデルのKPIは「広告モデル」から「手芸のレシピを売る」という形に変わってもよいが価値は変えない

ということを意識して、撤退基準を決めます。

撤退基準のモニタリングは月に一度はやりすぎですが、四半期に一度くらいのペースでみていきます。たとえば、1年やってダメなら、半年間の撤退期間を設けてユーザーへの説明と撤退シナリオに基づき、事業承継してくれる企業を半年くらいかけて探しましょう。