今回お話するオープンイノベーション型の新規事業とは、3社以上のコラボによって新しい商品やサービスを実際に生み出し、PoC、PoB、PoCAをおこなっていく新規事業のことです。

オープンイノベーションを進める場合、当然さまざまな企業と組む必要があります。そこで、コンサルタントから、ピッチイベントをやりましょうという提案や、マッチングプラットフォームを使って紹介をしますと提案を受けることが多いと思います。

こういった提案を受けたり、検討したりする前に、自社側で必ず用意しておく必要があるのが、今回ご紹介するオープンイノベーションシナリオです。

オープンイノベーションシナリオは、自分たちがどのような新規事業アイデアを受け入れ、どのような企業と組んでいくかを決める際に非常に役立つだけではなく、新規事業の立ち上げ時に自分たちの進めていきたい事業の領域を見定めるフレームワークとしても非常に有効です。

組み先は領域(カテゴリ)の問題と技術の問題に切り分ける

オープンイノベーションシナリオは、
①自社事業領域
②隣接領域
③OBゾーン

という3つの階層になっています。

たとえば、損害保険事業をしている保険会社であれば、生命保険や再保険は自社のコア領域ではありません。つまり、自社のコアな業態に対して、どういう風に他社と組んで最終的につなげていくかを明確にすることが、オープンイノベーションシナリオの役割です。

損害保険会社の場合、人の安心や安全に関わる事業なので、安心安全をより推進していくようなアクセラレーションプログラムをおこなうことになったとしましょう。

そこへ、
・ドライブレコーダーのビッグデータを持つ会社
・人間の血液検査のビッグデータを持つ会社
・健康食品を売っている会社

といった安心安全、ヘルスケアなどさまざまな企業からの提案がきたとします。

このとき、どこまでがOBゾーンかを具体的な例を用いて決めておくのがオープンイノベーションシナリオの定義です。

もしもドライブレコーダーのデータを持つ会社と組むのであれば、そのまま保険の算定料率の改善に使用できるでしょう。何故なら、安全な運転、または危ない運転をしている人が可視化されるため、保険料を上げる、または下げることが可能になるからです。これは自社領域のコアに直接関係してきます。

ただ、自社のコア領域に関わるジャンルや技術などに関しては、すでに知っていて投資している場合も多くあります。

一方、血液検査のデータを持つ会社は、一見損害保険とは無関係に感じられるかもしれません。しかし、オープンイノベーションシナリオがあれば、ここにチャンスを見出すことができます。我々がオープンイノベーションシナリオを作る際にもっとも気をつけているのは、組み先を選ぶ際、領域(カテゴリ)の問題と技術の問題に切り分けることなのです。

領域の問題だけで考えてしまうと、血液データは人間の生命体としての健康に関することなので、事故や安全とはシナジーがないと思いがちです。しかし、技術の部分にフォーカスしてみると、大量の血液検査データ分析のアルゴリズムは、人の運転の危険度や事故の発生確率などに応用できる可能性もあります。

当然逆のパターンもあり、技術は応用できないが、その領域のデータを自社の持つ技術で分析し直せば使えるということもあるでしょう。

大切なのは、常に領域と技術を分けて、どちらが関係あるのか、どちらも関係あるのかを見ながら、たとえばこの技術しかなければOBゾーンという風にあらかじめ分類しておくことです。そうすることで、技術の部分で組むのか、領域の部分で組めばいいのかが非常に分かりやすくなります。

また、オープンイノベーションシナリオを持つことで、社内で審査する際も「こういうシナジーがとれる」と発言しやすかったり、ピッチイベントなどに出たときにも技術的な質問をすることが可能になります。

オープンイノベーションシナリオでは、世の中のさまざまなベンチャー企業のデスクリサーチをしながら、「こういう企業が来た場合はこうする」という風に、リアクションシナリオを作ります。すると、自分たちのステークホルダーが関係するかしないかが分かる自社流のカオスマップができます。我々がオープンイノベーションシナリオの作成を支援する場合、その会社には一見関係なさそうな情報もどんどん活用していきます。そうすることで「実は技術的には関係ある」というような議論を進めていくことが可能になるのです。

これがオープンイノベーションシナリオの有効性なので、オープンイノベーションを推進している人は、まずはこのシナリオを作るのが有効です。社会動向の未来洞察をするよりも具体的な判断のロジックに使うことができます。