今回は事例を想定しながら、新規事業構築のプロセスをご紹介します。
まず、新規事業の構築にはおおまかに以下のようなプロセスが存在します。① アイデア発想
②アイデアの絞り込み
③簡易事業計画書作成
④実証実験の計画
⑤POC
⑥POB
➆受容性調査
順にそれそれについて解説していきます。
新規事業のプロセス①アイデア発想
まず、新規事業を構築する手順として、アイデア以前のテーマ出しには、WEBや雑誌などの記事を活用したブレインストーミングを活用します。外部の会社と協力し、世の中の流れやさまざまな生活者の潮流などについてデスクリサーチを依頼し記事を収集することもあります。
その情報をチームで100記事ほどピックアップ、どの記事に興味があったか、どういった点が気になったかをディスカッションします。そうすることで、チームの中でも「自分たちは実はこういう事業がしたいんだ」と再認識することができます。そこでテーマを4、5個くらい設定します。
このテーマをもとに、アイデアを20案ほど作るのがまずはファーストステップと言えます。
事例ベースでお話しすると、ある新規事業案件ではいくつかの事業テーマが与えられていました。たとえば働き方を改善するものや、ママたちの育児労働の手間を省くもの、教育への不安から幼児教育などです。アイデア作りで我々が大切にしているのはMVP(ミニマムバイアブルプロダクト)を作ることです。
よく、失敗してしまう新規事業の例として、最初に大きすぎるビジネスモデルを考えてしまうパターンが散見されます。
たとえば「データ販売を行うプラットフォームを構築します」という事業案をよく見かけますが、「ではどうやってデータを集めるのですか?」という質問に答えられないということが多々あります。データを取得するためのプロセスを踏まず、ゴールのイメージだけを先に作っても、実証実験に進めて、事業を実装することはできません。
新規事業のプロセス②アイデアの絞り込み
様々なアイデアの中からチームでどのようにアイデアを選定していくかは、各位の方針により異なります。たとえば自社のリソースを存分に活用したい場合、活用可能かどうかという目線で選定しますし、事業規模が重要な場合は投資が大きくなろうとも、スケーラビリティがより望めるものを基準に選定していきます。
また、自社が強みとするカテゴリやジャンルの生活者の課題を解決したいのであれば、既存顧客に対して別のサービス・価値を提供できているかという視点でみることもあります。いずれにしても、手順としてチームが作成したアイデアをもとに、ディスカッションで絞り込んでいきます。
新規事業のプロセス③簡易事業計画書作成
アイデアを絞り込んだら、生活者のインサイトをもとに、精緻に事業のサービスデザインを作りこみます。
例えば、簡易事業計画書には大きな構成として以下の要素があります。
1.エグゼクティブサマリー
そのサービスがどういうサービスなのかということを簡潔に表します。
2.ビジョン
なぜこの事業をやりたいのか、この事業をやる社会的な意義をまとめます。
3.想定ユーザー
ユーザーはもちろん、サービスに関わるすべてのステークホルダーを具体的に示します。
4.サービスデザイン
サービスのプロセスを場面ごとに表したサービスの設計図です。
5.キーパスシナリオ
実際にその事業が世の中に出ていったとき、どのように認知され、そのサービスを使ってみたいと思うのか、実際にどのように使用され、使用後に価値を感じてまた使いたいと思うかを一連のシナリオとして表したものです。
6.競合サービス
国内外の競合、または時間とお金のうえでの競合も把握しておく必要があります。
7.プレイヤー
新規事業は自社の人間だけでは進められないことが多いため、事業を形作るうえで必要なプレイヤーを整理しておきます。
8.ビジネスモデルと儲けの仕組み
単なるビジネスモデル図ではなく、人とモノとお金の動きをまとめた図が必要です。
もちろん事業計画なので、売り上げの構成や、原価構造などはオープンデータを活用して分かる範囲で書いていきますが、ポイントはここであまり作りこまないことです。
後々解説いたしますが、最初に作る数字はあとでいくらでも変更できてしまいますし、実証実験をしていない数字はサービスの価格を過大、過小評価していることも多々あるからです。
簡易事業計画書は、2週間に1回程度チーム内で進捗共有を行いながら、生活者インサイトにもとづいて、「自社のリソースがもっと使えるのではないか」「ターゲットは実はこういう人がよいのではないか」などディスカッションしながら、ビジネスモデルやサービスの提供方法をブラッシュアップしていきます。
例えば、架空の教育事業の新規事業として考えてみましょう。一言で「教育事業」といってもどんな事業を提供すべきか、いくつか案があります。例えば、世の中の母親たちのコアなインサイトに着目してみましょう。
現代はAIの発達、ロボットの発達が叫ばれ、将来的には既存の職業がなくなるといわれ、これまでの詰め込み教育では太刀打ちできなくなる時代はもうすぐそこまで迫っています。事実、センター試験の廃止など、子育て世帯は既存の教育の在り方に危機感を持っていることは、データからも読み取ることができます。
では、そんな世の母親たちが、どのように子どもを育てていきたいと考えているかというと、簡単にいうと「未来はどうなるか分からないので、後悔なく自分の人生を生きられるよう、さまざまな興味関心を広げてあげたい」というコアなインサイトが存在します。
このインサイトを起点にスキルシェアのサービスを事業アイデアを考えることとしましょう。
スキルシェアは現在、さまざまなスキルを教える・教わるプラットフォームとして成立していますが、簡易事業計画を作るフェーズで、競合や競合になりうるサービスのリサーチをする際に、既存の教育系のスキルシェアで出品されているサービスには、“完成品”が存在するという点に疑問を持つとします。
たとえば、あるモニュメントを完成させる1時間の図工体験のようなイメージです。サービス提供者からすると、スキルを目に見える成果に変換し、利用者からお金をもらっているということです。しかし、興味関心を広げてあげるためには、あらかじめ用意された材料をもとに、完成したサンプルを見ながら正確に作るという体験では創作のプロセス自体に興味関心を持てないと判断できます。
制作する過程で想像力を働かせたり、自分の興味と向き合うことを求めているのではないかという仮説が私の中にはあるからです。
スキルシェアはいわゆる習い事に近いものですが、どんな領域ならこういった体験ができるかを、実証実験に向かうために考える必要があります。たとえばサッカーとだと集団行動や組織的守備、連携、戦略などは身につきますが、実際にスキルを教える際には場所も必要です。
そこで、実は母親たちが教えたいが自分では教えられないジャンルとして美術に旗を立てることが考えられます。芸術においてなにが正しいのか、間違っているのか自分は判断できないものの、創作活動を通し、クリエイティビティが磨かれ、感受性が強い子になるというイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
とくに制作プロセスでものごとを考えたり、何が好きなのか自分と向き合ったりという興味関心を知るための時間として、最適な手段だと考えられます。
この事業計画において非常に重要な点は、事業化に向かうために「スキルシェア」という大きな枠組みで事業アイデア発想が終わったと思わず、スキルシェアの中でも美術から始めようという意思決定をすることです。アイデアは、事業計画を作成する中で浮き彫りになる業界の課題や、競合の強みを分析することで、ブラッシュアップを図っていけるのです。
新規事業のプロセス④実証実験の計画
このようなシミュレーションを行った結果、実証実験は美術で行うこととします。
その後、実際に実証実験でスキルを提供できる最適なプレイヤーを探すことになります。実験を行う際に、著名な芸術家を連れてくる必要はありません。子どもに体験してもらいたいのは、制作するプロセスでいかに思考するかという点であり、そういった表現を突き詰めて行っている人であれば、学生でもよいのです。
実証実験では、最初はプレイヤーが子どもにどう教えるのかを観察し、教えるためのプロセスを我々が言語化することになります。プレイヤーだけがサービス利用者に教えるためのスキルノウハウを持っていることと、その人以外でも教えられるように事業部の体制を整えておくのとでは、スケーラビリティがまったく変わってきます。初めから指導できる人を集めることと、指導できる人を育てていくことは事業の価値は後者の方が高いと判断されるでしょう。
スケールするためには、スキルであっても同じ品質でサービス提供できる新たなプレイヤーを育てることが重要になるため、利用者に指導するプロセスをプレイヤーと体系化する必要があります。
新規事業のプロセス⑤POC
このような計画に基づき、サービスで提供したい価値が実現できるのかを簡易テストに移行します。サービスに価値があるかを実証するためのものなので、POCは無料で行います。
このシミュレーションの場合、そもそも美術に取り組むことが正解だったのかという点はもちろん、共働きの子育て世帯などが土日に習い事に連れて行くのが大変だということで、自宅提供型にしてはどうかという仮説を立て、それらを一回のテスト中にすべて検証できるようにプログラムの手順を設計することもできます。
実証実験は、サービスがローンチされた時と同じように行うことがポイントです。サービス提供の様子を外側から観察し、それぞれ価値提供ができたのか〇×で検証して、×がついたものは何故ダメだったのか、ブラッシュアップポイントはどこかを考えます。
無料実験は2回程度行い、ブラッシュアップする必要があるでしょう。
実証実験成功の鍵は、実験時の仮説の細かさです。
サービスで提供したいコアな価値は、このサービスにおいては、まずサービスの流入のきっかけを掴むという意味で、自宅に派遣するというビジネスモデルがあります。
また、エンドユーザーは母親を通した子どもであり、子どもがいかに楽しめるか、しかし評価するのは母親という構図があると、サービス提供中、母親にはなるべく口出ししないことを指導者から伝えてもらうようにする必要があります。
このレベル感で細かく設計し、プログラムにそれぞれ意味を持たせておかなければ、ダメだった場合、何がダメだったかが検証できません。
一方で、このレベル感で実証実験ができれば、以降はスムーズに進めることが可能です。多くの新規事業チームは仮説の作り込みが不十分になることがあります。そのため、実証実験に進めずにいる、もしくは実証実験を行ったがどこを修正すべきか判断できずに、事業性なしと判断されている可能性があります。
サービスのコアさえ決まれば、ほかにどんなジャンルなら応用できるかを考えて、当てはまるものを順次拡大していくことができます。
新規事業のプロセス⑥POB
無料のPOCを行ったうえで、実際にお金がいくら支払われるのかつめていくのがPOBです。生活者の方に有料でサービスを提供し、実数をもとに事業計画を詳細に再度ブラッシュアップしていくというフェーズになります。売り上げ構造や原価構造もここまで実証することでかなり明確になります。
POCでサービスに価値があるということは母親たちに認めてもらうことができたとして、ではこのサービスに一体いくら支払われるのか、ビジネスモデル自体を検証していかなければいけません。
このときに重要なのは、単にPOCと同じようにサービスを提供し価格を伝えるのではなく、POBでは人件費まで入れられるように規模を大きくすることです。
たとえば、サービスが実装された場合、サービス提供者ははじめから指導ができる人ばかりではなく、指導ができる人材に育成していく必要があります。
ここでもPOCの経験を活かし「〇〇なタイミングで子どもに□□な声掛けをしましょう」といった細かなガイドラインを作ることなどが想定されます。新規事業のプロセス➆需要性調査
さらに詳細なステップとしては、このあとに受容性調査をします。
よく、最初に事業アイデアを作った段階で、その事業アイデアの受容性を検証するために調査を行うという話がありますが、サービスの最もコアな価値は何かという部分は、意外とコンセプト段階では見えていないことが多いです。そのため、受容性調査では「あったらいいよね」という意識で回答されてしまい、高いスコアが出ることが多くあります。しかし、実際その数値に基づいて進めても、契約件数が伸びないという事態が起こってしまうのです。
そうならないためにも、POC、POBを通して作りこんだプログラムを調査に落としたものであることが重要です。
例えば、「このサービスは自宅派遣なので夕方帰宅して、夕飯の支度など家事をする間、先生が子どもをみてくれる、しかも創造力を鍛えることもできる。そのための仕組みとしてこういうプロセスを踏んでいます」という説得力のあるプログラムを提示することで、「そのうえであなたはいくらお金を支払いますか?」という調査をかけることができるのです。
このような需要性調査を行えば、5年間の収支計画であれば、かなり納得感のいくものに仕上がります。
一方で、簡易事業計画段階で数値はあまり重要視せず、サービスデザインを重視するという考えもあります。
仮説で作った数字より、サービスを作りこむことによって単価は2倍、3倍に上がる可能性があり、当初の仮説の数字はあまりあてにならないというケースがあるからです。
新規事業では事業規模を求められるので、幕の内弁当のようにあれもこれもとサービスを追加しがちです。スキルシェアというカテゴリなら、勉強では市場規模これくらい、ダンスではこれくらい、美術/芸術ではこれくらいと追加して行き、カテゴリを増やせば増やすほど書類上の数字上の売り上げが伸びるのは当然です。だからこそ、多くの企業がプラットフォームと口にして、一つの事業で多くのサービスを取り扱おうとするのです。
しかし、実際に新規事業部という人的リソースが限られている中で実施できることには限界があります。特に事業立ち上げ時期には、一つの事業に見えても、4つ、5つのジャンルを同時進行して事業実装するのは土台無理な話なのです。
だからこそ、まずひとつの領域で強固なサービスを作りあげ、そこを基点に拡大していくという視点でサービスを作りこむことが重要です。そこで培われたノウハウを応用するのはすごくラクですが、初期モデルを作り上げることがもっとも難しいので、「何から始めるべきか」という質問にチームとしてしっかりと答えていく必要があります。